2025年5月、米国下院歳入委員会は「One Big Beautiful Bill」の一部として、内国歳入法に新たな税制条項「セクション899」を追加する提案を承認しました。この税制は、特定の外国税制を”不公平”とみなし、当該国の居住者や企業に対して米国での税率を大幅に引き上げることを目的としています。本記事では、日本人や日本企業にとってこの新税制がどのような影響を与えうるのか、2025年6月10日現在の公開情報をもとに解説します。
セクション899とは何か?
セクション899は、米国が”不公平な外国税制(Unfair Foreign Tax)”とみなす税制を導入している国を「差別的外国国(Discriminatory Foreign Country)」と指定し、その国に関係する非居住者や法人に対して、以下のような米国源泉所得に関する税率を5~最大20%上乗せするというものです:
- 配当、利子、ロイヤルティ、賃貸料などの非事業所得
- 米国における事業所得(Effectively Connected Income:ECI)
- 不動産譲渡益(FIRPTA)
- ブランチ利益税(Branch Profits Tax)
- 政府機関の免税適用除外(§892)
- 外国財団への課税、BEAT等の追加的税制強化
実質的には制裁的な性格を持つ税制です。
日本は対象国となるのか?
現時点では非該当
日本は現時点でデジタルサービス税(DST)や逸脱利益税(DPT)を導入しておらず、セクション899の直接的な対象とはなっていません。
しかし将来的なリスクはある
日本はOECD主導のグローバル・ミニマム課税(Pillar Two)に積極的に参加しており、UTPR(少課税利益ルール)を2026年4月から導入することが予定されています。この制度はセクション899で”不公平な税制”とされる可能性が高く、結果として日本が”差別的外国国”に指定されるリスクがあります。
日本人に与える可能性のある影響
米国証券投資家
- 配当や利子への課税が引き上げられる可能性
米国不動産投資家
- 米国不動産譲渡時の源泉税(FIRPTA)が15%から引き上げられる可能性
- 賃貸事業に関する課税が引き上げられる可能性
- 売却益に対する課税が引き上げられる可能性
まとめと対応策
現時点では日本がセクション899の対象国ではないものの、2027年以降には対象となる可能性があり、法案の成立有無および日本が適用対象となるか動向を引き続き注視する必要があります。
日本人・日本企業に推奨される対応:
- 米国関連所得への影響を事前に分析
- 国際税務構造の見直し
- 所有構造の透明性確保
- 必要に応じて米国税務アドバイザーとの協議
この税制は、単なる制度変更ではなく「米国の国益を守るための制裁的なツール」として使われる可能性が高く、日本の対米投資戦略やタックスプランニングにも重大な影響を及ぼすと考えられます。早期のリスク評価と対応策の検討が強く求められます。